『必要か、リニア新幹線』橋山禮治郎氏
書評『必要か、リニア新幹線』橋山禮治郎氏
JR東海が推進する中央新幹線構想、リニア新幹線の経済性を検証したいと、書籍やgoogleなどで、関連文書を探しました。
しかしまともな文献がなかなか見つからないのです。
これほどの大規模・公共プロジェクトの経済的効果を検証するような文献が、まさか見つからないとは思いませんでした。
一言いわせてください。
大丈夫か、日本の学会。。。。
そんな中で見つかったのが、この1冊です。
橋山禮治郎氏による『必要か、リニア新幹線』です。
数少ない関連書籍の中で、学者の先生によって書かれた、リニア新幹線を悲観的な見地から検証する書籍です。
なお、初版は2011年2月3日に発行されています。
橋山先生ですが、専攻は政策評価、公共計画、経済政策だそうです。
大平首相の田園都市国家構想立案に参画したほか、各種政府審議会・委員会委員を歴任されたと著者紹介には記されています。
書評なのですが、まずは結論から。
あまり議論(質)の深い本ではありません。
著者紹介でも記されている通り、公共計画・政策評価の専門家であり、過去様々な公共プロジェクトの評価に関わっておられるようですが、リニアの専門家ではありません。
そのため、本書170ページで構成されるのですが、その大部分である54ページが過去の「インフラ投資の成功と失敗」に充てられています。
要は、自分の過去の研究成果発表の場となってしまっているのです。
また1番肝心な経済性について「筆者の試算では、リニア中央新幹線単独のプロジェクト収支は開業当初から赤字の発生は必至で、黒字転換の目処も経たない。」(p.149)と記されていますが、その試算となる根拠は一切記されていません。
さらに書籍を通して、東京-大阪間の旅客輸送は伸びていない、座席利用率は55%~65%しかない、と記されていますが、この書籍が記された2011年現在は確かにリーマンショックの影響で利用状況は減少傾向でしたが、長期トレンドでは右肩上がりです。
そして、鉄道は航空業界と違い、座席利用率を上昇させることに大きなメリットはないでしょう。
それよりも、需要が伸びた分、満席で乗れない顧客が出ることを防ぐ目的で、列車を増発し、収入を増やすことの方が大事だと思います。
(東海旅客鉄道 2018 Fact Sheetsより抜粋)
公共政策の専門家からの見地が伺い知れて、面白い書籍だとは思いますが、リニア専門家ではないため、議論の質が浅く、説得力のある数値が根拠とともに示されているわけでもありません。
終始、悲観的な内容で、リニアを論じていますが、どちらかというと、東海旅客が公開している主張に対応する形で、この部分はこういう理由で説得力に欠ける、この部分はこういった理由で不可能だと思う、というような個別具体的な論調で、存在意義を問うことが学者先生には求められるのではないかと思いました。
こーた
以前にJR東海の記事を書いたものです。